2008.5.26
 
紙飛行機の製作精度で驚いたこと
天白公園の常連 浅山行昭 
 趣味で紙飛行機を作り、それを野原で飛ばしては喜んでいる今日この頃である。さて、紙飛行機の製作で最も重要なことの一つは重心位置を決めることであろう。
 主翼の及ぼすモーメントは、主翼の面積と弦長の積に比例する。一方、復元モーメントは、尾翼の面積とモーメントアームに比例する。そこで、水平尾翼の効果を表すのに水平尾翼容積という概念が用いられる。水平尾翼容積と重心位置が一定の関係を維持する限り、紙飛行機は安定した飛行を持続することが出来るといわれている。水平尾翼容積をH、安定して飛行できる重心の平均翼弦に対する比率をCGとし、そのうち、最大値をCGmax、最小値をCGminとしたとき、小林昭夫氏の本「紙ヒコーキで知る飛行の原理」によれば、
  CGmax=(H×50)+25 ・・・・・・・・・・・・(1)
  CGmin=(H×50) ・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
となる。CGmaxより翼弦の割合が大きい重心位置では縦安定性が不足する。一方、CGminより翼弦の割合が小さい重心位置では縦安定性が十分すぎて、紙飛行機としては不利になる、と言われている。従って、CGmaxとCGminとの間に重心位置を設定すれば、安定した飛行が期待できるそうである。でも、これまでの経験から、CGmaxよりも若干大きい重心位置の方が最高の飛行時間が得られるようである。
 ところで、インターネットで紙飛行機に関する記事を見ていたところ、K.Moriai氏の「樹海ドームレポート」なる記事を発見した。重心位置を変化させて紙飛行機を飛ばしたときの飛行時間が記載されていた。その結果を表1で示す。最高の滑空時間を含む滑空時間とその前後の滑空時間並びに重心位置の翼弦割合が示されているので貴重である。そのとき使用された紙飛行機の主要諸元は「重心位置と滑空時間」という記事に載せられていた。Moriai機と浅山が現在製作している紙飛行機の主要諸元とを比較してみると、表2に示すように、両者にはそれほど大きな隔たりはない。
 この主要諸元と飛行試験記録から飛行試験ごとの飛行機の水平尾翼容積(H)、CGmin、CGmax、及び(CGmmax-CGmin)を100としたときの重心位置の割合
  CGloc ={(CG−CGmin)/(CGmax−CGmin)}×100
       ={(CG−CGmin)/25}×100
       =4(CG−CGmin)
及び、Moment Armを計算した。その結果を表1に示す。なお、重心位置の変更は機首のオモリの量を少なくしていった、と記載されている。
表1
重心位置 タイム(sec) CGmin(%) CGmax(%) CGloc % (%) Moment Arm(cm)
翼前縁からの距離(mm) 翼弦の割合    (%)
2.90 113.6 50.17 1.629 81.44 106.44 128.64 8.721
2.93 115.0 52.50 1.623 81.15 106.15 135.39 8.691
2.95 115.9 53.80 1.621 81.04 106.04 139.46 8.671
2.98 117.3 54.90 1.614 80.68 105.68 146.48 8.640
3.07 121.3 52.40 1.600 79.86 104.86 165.76 8.522


表2
機種 Moriai機 浅山機
主翼 投影翼幅(mm) 167 186
投影面積 3680 3800
平均翼弦 22 20
水平尾翼 翼幅(mm) 74 70
面積 1512 1365
面積比  水平尾翼/主翼 (%) 41.09 35.92
重心位置 (平均翼弦の%) (一例) 113.63 112.24
Moment Arm  (一例) 86.4 101.3
機体重量 (g) 3.35 3.5
翼面荷重  (主翼) 9.10 9.21
水平尾翼容積 1.61 1.80
 表1の飛行試験結果を我が浅山機の紙飛行機の重心位置と比較してみることにする。
浅山機の重心は機首につける鉛板の大きさで調整している。
使用している鉛板は、厚み 0.4mm 幅 16.0mmである。これを最小単位1mmのスケールが入った物差しを用いて、長さ方向に1mm、2mm、3mmと行った具合に1mm単位の長さで、必要な長さのオモリを切り出して使用している。これを CGmax と CGmin の幅と比較してみると、重心位置は3ないし4個分に相当するので、十分であろうと思っていた。しかし、これを Moriai機の重心位置である CGloc(%) で比較してみると、表3のようになり、 CGloc(%) はかなり粗く、場合によっては最適 CGloc(%)を逃してしまう恐れがあることが判った。

表3
Moriai機 浅山機
翼弦の割合 (%) CGloc  (%) 鉛板の長さ (mm) 翼弦の割合 (%) CGloc (%)
    3 117.90 103.69
113.6 128.64      
115.0 135.39      
115.9 139.46      
    2 125.75 140.75
117.3 146.48      
    1 133.95 179.43
121.3 165.76      
    0 142.51 219.83
 鉛の比重の大きさを、あまり考慮せず、最小単位が 1mm ならば、紙飛行機の精度としてはすべて十分であろうと、思い込んだところに落とし穴があった。CGloc(%)で比較すると、浅山機の重心の検討では、鉛板 1mm と 2mm の間を細かく検討する必要があることが判った。 このことから、鉛板の幅 16mm を半分の 8mm に切断し、さらに最小単位 0.5mm のスケールが入った物差しを使用するとか、鉛板の厚みが 0.2mm のものを使用するなどの工夫をして、肝心の翼弦の割合のところでは、その値をきめ細かく採用する必要があることを痛感した。
 Moriai氏曰く、屋外で普段飛ばしている時の重心位置は翼弦の割合で 115% あたりである、と。即ち、屋外では、ドームで得た最高タイムを記録した重心位置よりも 0.6mm 程度前になるそうである。
ところで、重心位置は、先に示した式(1)、(2)から判るように、機体の水平尾翼容積に影響されるから、重心位置を比較するには CGloc(%) を用いなければならない。Moriai機の翼弦割合 115% の CGloc(%) は 135.39 である。これが最適重心位置 CGopt に対応するものであるとするならば、
        CGopt=(H×50)+(135.39×25/100) となる。
即ち     CGopt=(H×50)+33.85 ・・・・・・・・・・・(3)
となる。この式を浅山機に適用すると、その翼弦割合は
        1.80×50+33.85=123.85 (%)となる。
表2に示した浅山機の翼弦割合では、最適な飛行時間を得る事は期待出来ないことが判明した。
 なお、当然のことながら、(3)式の 33.85 は表1の翼弦の割合 115%から、その割合のCGmin値 81.15%を引いた値である。
inserted by FC2 system